1800年代のムーンストーンのカメオのピン。

顎下でリボンを結んだボンネを被ったベビースタイルのムーンフェイス。
別の石のムーンフェイスで、アンティーク品と組み合わせた現代のリプロダクションがアンティークとして販売されていましたが、当時物のオリジナルはかなり珍しいです。

不機嫌な表情のムーンフェイスもあまりありません。
オリジナルでは、ブレスレットやネックレスで笑顔や怒った顔と組み合わせたジュエリーもあります。
即位した時、小柄で不機嫌な18歳と評された英国のヴィクトリア女王の晩年の写真に、そこはかとなく似ています。
連合王国のアンティークショップで購入しており、恐らく同国の製品で、あまり笑わないとされた女王へのオマージュだったのかも知れません。
不機嫌な顔で赤ちゃんスタイルというのも、冗談好きな国民性の一端を示しているようです。
本当に赤ちゃんのカメオもありますが(と言うか通常のボンネを被ったカメオは赤ちゃんで、実子の記念品として作られている)、その場合にはきちんと前髪が付いています。

平面の画像で彫りの良さが伝わらないのが残念ですが、眼窩から瞼、その視線、目尻と涙袋、高い頬骨のラインと額から繋がる鼻筋(これも一つの特徴で、額から少し削って鼻筋を出した、ボンネに合う、より小さなクラシックなタイプの方です。額からそのまま鼻筋が繋がった、長い鼻梁の、横から見るとアバターのようになっているタイプではありません)、鼻の先端、鼻翼、鼻腔やその下のラインから繋がる唇の山、への字になった唇、すぼまった顎、ほうれい線や額の皺、と、僅か８mm程ですが、非常に緻密に掘られています。
細かく彫り込まれているというより、ラインがはっきりしていて、形状に全く狂いや甘さがなく正確です(手持ちのムーンフェイス比)。
そして、表面の彫刻部には、見えている範囲で傷や欠けが見当たりません。
裏側はつやを持たせた鏡面仕上げのため、若干の擦れが見られます。
ムーンストーンは表面のみつや消し加工のため、内部から浮かび上がるシラーが、金属的な光を帯びてややグレーがかった影と共にムーンフェイスの表情を浮かび上がらせます。

金属部分も同様で、裏側の金属部分にはやや擦れがあります。
服の生地と擦れる側なので、多少は仕方のないものではありますが、目立つ傷は一切ありません。
ピンが付いている部分は、補強のため台座の上に金の板を貼っています。
その板の部分はイエローゴールド寄りで、強度を持たせるため等の配合した金属の違いに因るものかも知れません。
その金の板も、ボンネと同じく粒金細工状の飾りを施した美しい仕上がりで、上から見ても抜かりのないシルエットになっています。
ボンネは、天然真珠を丁寧に一つずつ手作業で半円に割った七つのスプリットパールで飾られ、外側の上部の縁はとても小さな粒金状の飾りで、ティアラのようなつくりになっています。
パールの先端にも、一つと三つと左右非対称に動きを出した粒金が付いています。
これらはすべて非常に丁寧で細かい作業です。
顎下で結んだリボンにも、影になる部分に細かい線状の模様が入っており、左右非対称で縦結びと動きがあり、半立体的です。
この非対称なデザインは視線の方向とリンクさせたもので、ほとんどが正面を向いた笑顔の多いムーンフェイスの中では、珍しく、とても凝ったデザインに仕上げられています。

スプリットパールの七つ、というのもヴィクトリア女王のラッキーナンバーなのです。
アンティークジュエリーには、サイズやデザイン、石の配置等によって隠された意味合いを持たされているものが多くあります。
ヴィクトリア時代には虫のジュエリーも流行っていましたが、杖にとまった赤い石の瞳にキャッツアイの胴体の蠅のブローチ等は、一見典型的なヴィクトリアンの有機的なアール・ヌーヴォーの意匠(虫＝悪趣味と酷評している英国の専門家もおられますが、意味があるのです)ですが、蠅は秘密の愛を示し、杖は魔法的な意味合いを持っています。
赤い色の瞳、キャッツアイの石の選び方も、ラバーズ・アイという意匠があることから、贈った相手と関係性を指し示しています。
このピンは、ムーンストーンのムーンフェイスで、ボンネのパールも、真珠は月の涙・雫とされたジュエリー、ボンネの形も三日月です。
ここでも、単なる赤ちゃんではなく、この時代に人気のあったムーンフェイスであるということを指し示しています。

表情、オリジナルの凝った意匠の台座(大抵リング等に作り替えられています)、状態共になかなか出て来ないジュエリーです。
購入したショップのボックス(少々擦れ等あり)にいれて発送致します。


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